2018年2月14日

原因探しではなく、成功例に目を向けよ! 『スイッチ! 「変われない」を変える方法』

1990年、ベトナム政府は子どもたちの栄養不足と戦うため、セーブ・ザ・チルドレンという国際組織に事務所の開設を依頼した。ベトナムの外務大臣は、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフであるジェリー・スターニンに対し、
「半年以内に成果を出して欲しい」
と告げた。ただし、人手は最低限、予算もわずかである。

スターニンは、ベトナムの子どもたちをとりまく栄養問題に関する多くの文献に目を通していた。衛生状態が悪く、貧困が蔓延し、清浄水は普及しておらず、地方の人々は栄養に無知。こうしたすべての知識を、彼は「True, but Useless」(真実だが、役に立たない)と考えた。期限は半年、予算もわずかしかないのだから、貧困の撲滅や水の浄化、公衆衛生システムの構築など不可能なのは明らかだ。

彼には、もっと良い考えがあった。

スターニンは地方の村々を訪れ、現地の母親グループと会った。そして、手分けして村中の子どもたちの体重を測ってもらい、その結果をみんなで検討した。彼は、
「家庭が非常に貧乏なのに、普通の子どもより体格が良くて健康な子どもはいましたか?」
と尋ねた。女性たちはデータを見て、頷いた。
「います」

これが「お手本となる成功例」、すなわちブライト・スポット(輝く点)である。

さて、スターニンと母親グループは、ブライト・スポットである家庭の食生活を調査した。貧乏なのに健康な子どもがいるということは、貧困での栄養不足は必然ではないということだ。そしてそれは、実用的ですばやい解決方法が可能だという希望をもたらす。厄介な根本原因を解決することに集中するのではなく、ごくわずかに存在する成功例、ブライト・スポットを見つけ出すことから解決方法を探ったのだ。

これで出てきた結論は、一般の家庭が子どもたちに1日2食を与えていたのに対し、健康な子どもたちは1日4食をとっている、というものだった。ただし、食事の一日総量は同じ。子どもたちの弱った胃では、少量ずつのほうがよく消化できるということのようだ。また、健康な子どもの母親は、田んぼで獲れる小さなエビやカニを子どもの米に混ぜていた。一般的にこれらは大人の食べ物だと考えられていた。さらに、低級な食べ物と思われていたサツマイモの葉も混ぜていた。どんなに異様で低級に見えても、こうした工夫でたんぱく質やビタミンが子どもの食事に加わっていたのだ。


本書では、人間の感情を「象」、理性を「象使い」として説明してある。象使いはリーダーで、象を従わせることに成功することも多いが、もし象と争う事態になれば負けるのは象使いである。だから、いかにして「象」と「象使い」のそれぞれの目的地を一致させるかということが大切になる。

ベトナムのエピソードでは、「どんなに貧乏でもできる健康食」を全国の村々に広めるため、知識(理性すなわち「象使い」である)を普及させるだけでなく、
「あなたの子どもをもっと健康にしませんか」
という、母親の感情(これが「象」である)に訴えかけるキャッチフレーズを用いたのだ。

非常にためになる一冊であり、かなりお勧め。

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