2017年4月18日

みんなに伝えるための被災映像の撮りかた

一年前、地震直後の緊急ニュースを生放送で観ていた。テレビカメラマンが、落ちているものばかりをクローズアップで撮っていてセンスないなぁと思った。視聴者としては、落ちたのがタイルなのか、それともレンガなのかなんてことはどうでもよく、どこから落ちたのか、その建物はどうなっているのか、あるいは広角映像で「どういう場所が危険なのか」を知りたいはずだ。

ボーリング場のでかいピンのオブジェが落ちていた生映像はインパクトがあったが、肝心の「それは元々どこにあったのか」が映されなかった(実は6階建ての屋上から落ちている)。「ないはずの場所にある巨大物」はインパクトが大きく、その反対に「あるべき場所に何もない」映像は一見すると地味だが、実はすごく大切な情報である。震災や事故を撮るとき、カメラマンにはクローズアップだけでなく広角映像もたくさん映して欲しい。崩れた石垣のドアップは衝撃的だが、俯瞰した映像を見ないと全体像がつかめない。イメージがわかない。

放射線科医に関するこんな話がある。胸部レントゲンを読影すると、ほぼ全員が腫瘍を見落とすことはなかった。しかし、片方の鎖骨がないのを見落とされることが多かった。つまり、「ないはずのものがある」は見落とされにくいが、「あるべきものがない」は見過ごされやすいということだ。

目立つところにフォーカスしすぎない、全体像を把握する。これは医療では当たり前。刃物で腹を刺されて腸がはみ出している人をみても、まずは呼吸や意識を確認する。腹に刺さった刃物や出ている腸(「ないはずのものがある」)に気をとられて、「あるはずのもの(呼吸や意識)がない」ことを見落としてはいけない。

それから、報道番組で、九州の地図を熊本中心に切り取って何町がどうのこうのとやっていた。それは確かに近隣住民にとっては大切な情報だが、九州全域や日本地図も適宜出さないと、どの辺りでどんなことが起きているのか全くイメージの湧かない人たちがいるはずだ。被災地域の人や関係者に情報を伝えるのと同時に、被災地には縁もゆかりもない人たちに「他人事ではない」と感じてもらえるような放送を目指して欲しい。そのためには、クローズアップして切り取られた地図だけでなく、広域の地図も出さないといけない。

全体的にクローズアップしすぎな報道と映像を見ながら、これを医療現場でやると患者を救えないな……、と感じたのだった。

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