2017年1月23日

内容はちょっと古いが、それぞれのエピソードは面白い 『脳の欲望 死なない身体 医学は神を超えるか』


タイトルはいかにも脳の話という感じだが、文庫化される前の単行本タイトルは『死なない身体 いま医学で起きていること』である。アルツハイマー病を中心とした脳や認知症の話もあるが、それ以外にも、救命救急センター、性同一性障害、摂食障害、美容外科、不妊治療といった分野の現場取材をまとめてある。

もともと1993年に刊行された本で、それを2001年に文庫化している。2017年現在からすれば15年以上前の話で、ちょっと古い部分も多々ある。だから、各分野の最新知見を得るためというより、取材対象となった人や分野に関するエピソードを楽しむような読書になる。

2017年1月22日

「金銭授受はいじめから逃れるためだった」「おごりおごられる関係」、だからイジメじゃない。そんなバカな話あるか!!

福島県から横浜市に自主避難した中学1年生がいじめを受けた問題。

横浜市の第三者委員会は、報告書で「金銭授受はいじめから逃れるためだった」と指摘し、「おごりおごられる関係」として「いじめ」とは認定しなかった。

イジメと認定すべきかどうか、俺は詳細を知っているわけではないので判断保留。気持ちとしては、絶対に認定すべきだと思う。だだし、ここでの本旨はイジメ認定ではなく、言葉の使い方だ。

第三者委員会が用いた「おごりおごられる関係」、これが非常に腹が立つ。

「おごりおごられる」という場合、互いに「おごる時もあるし、おごられる時もある」という意味だ。

たとえば結婚式の友人スピーチで、新郎とは「助け、助けられ」「励まし、励まされ」「抜きつ、抜かれつ」など言った場合、こちらが助けたり励ましたり抜いたりすることもあったが、相手から助けられ励まされ抜かれることもあった、ということだ。

イジメで一方的に殴られる子どもを表現するのに、「殴り殴られる関係」とは言わない。その表現だと、普通は「互いに殴り合った」と解釈する。AがBを殴ったら、BがAから殴られたのは言うまでもない。もしそこで「殴り、殴られる関係」なんて言うなら、それは「馬から落馬する」「頭痛が痛い」と同じ二重表現である。

ただし、一方的におごらされている場合に「おごりおごられる関係」というのは、二重表現ではあるけれど、日本語として破綻しているわけではない。嘘を言っているわけでもないし、矛盾しているわけでもない。こういう表現を聞いたら「おごるだけでなく、おごられることもあった」と解釈するのが一般的というだけだ。だから、第三者委員会としては、
「わたしたちは嘘は言っていません。そちらが、互いにおごり合ったと解釈したのでしょう」
ということだ。非常にずる賢い。

次に、百歩譲って、加害者が被害者におごることもあったとする。150万円も巻き上げていれば、その中から1万円分くらいは「おごった」ことがあったかもしれない。それなら「おごり、おごられる関係」で間違いないだろうか。いいや、そんなことはない。

「おごりおごられる関係」という報告書を書いた人物に問いたい。

あなたが上司から、断れない食事に誘われることが多いとしよう。あなたが支払う時は5万円の料亭で、上司が支払う時は5千円の焼き肉。これが何年も続いて、あなたの負担は数百万円にもなるのに、上司のほうは数万円。これを「おごりおごられる関係」と言うだろうか? 絶対に言わないはずだ。世間一般では、パワー・ハラスメント、パワハラ、大人のイジメという。

こんな誤魔化しの報告書を出すような、そんなずる賢い人間にはならないように!!


原発避難の小学生が「150万円払わされた」→横浜市教委「いじめ認定できない」Twitterでは疑問続出

2017年1月20日

ゆる系な研修医なら必読! モーレツ研修医も読んでおこう!! 『極論で語る総合診療』


すごい本である。裏表紙にはこうある。
すべての疾患について高い専門領域を維持し、入念に習得することは残念ながら時間的に「不可能」です。
そこで、著者はまえがきでこう語りかける。
「最も頻繁に遭遇する病気だけを、各専門領域から厳選して勉強するだけで充分である」ことをメッセージとして伝えたいのです。
内容は多岐にわたる。
  • 消化器
  • 整形
  • 神経
  • 循環器
  • 内分泌・代謝
  • 皮膚
  • 呼吸器
  • 感染症
  • 泌尿器
  • 血液
  • 耳&鼻
なお、監修者と著者の話し合いの結果、各章タイトルから「科」という文字を意図的に外したそうだ。この内容で4200円なら、充分に釣り合っているように思える。

自分は精神科医だが、精神科は患者から「よろず相談」的なプライマリ初期診療を求められることが多い。本書ですべてが事足りるとは思わないが、ここを足掛かりにして次の学習への一歩が踏み出せそうである。

これで極論シリーズは『睡眠医学』『神経内科』につづき3冊目になる。いずれも面白かったので、さらに手を広げてみたくなる……。

2017年1月19日

リンカーン・ライムシリーズとは違ったタイプの面白さ 『スリーピング・ドール』


脊髄損傷で首から下が麻痺した天才犯罪学者リンカーン・ライムを主人公にしたシリーズで、脇役として出てきたキャサリン・ダンスが主人公になった小説。

ダンスはキネシクスを駆使する天才尋問官である。キネシクスというのは、コミュニケーションにおいて身体の動きがどのようなことを表現するかを体系的に研究するもので、ダンスはこのキネシクスを駆使して相手の嘘を見抜いていく、それも天才的に、という設定。

ライムシリーズと同じような興奮を期待して読むと、ちょっと肩すかしをくらうかもしれない。ライムシリーズに比べると、ダンス以外の登場人物の描き方もちょっと膨らみが足りない気がするが、それは単にこれがダンスシリーズ一作目だからかもしれない。

分量は多いので、読み始めるのにはちょっと思いきりが必要な本。

2017年1月18日

子どもらのためにのこしたい! 『風の谷のナウシカ』


とても素晴らしい内容だった。映画版では描ききれない部分を、広く深く追及している感じ。7冊で3000円は安いのだが、そのぶん紙質もビックリするくらい悪い。「タウンページ」なんて揶揄もあるが、それどころではない。タウンページが良質に思えるくらいだ。

子どもたちのためにのこしておきたい本だが、この紙質だと劣化が早そうである。豪華版も出てはいるが、上下巻あわせると1万2千円という極端な値上がり。豪華でなくても良いので、合わせて6千円くらいの普及版を出してくれないものか。

というか、Amazonレビューからずるに百科事典なみに贅を尽くした「豪華版」は、『風の谷のナウシカ』のテーマとは大きくズレるのではなかろうか。「豪華版」の出版を宮崎駿がよく認めたものだが、それはそれ、これはこれ、というところなのかもしれない。


こちらが豪華版。