2017年12月11日

動物園に行きたくなる! 見たくなる! 考えたくなる! そうだ、動物園に行こう!! 『動物園にできること』


20代の初め、たまたま行った動物園で、二匹のライオンが互いに吠え合っているのを聞いたことがある。テレビで聞いたことのあるのと同じ鳴き声だったが、思わず立ちすくんでしまうナマの迫力があった。あれはテレビやオーディオでは再現できないだろう。なぜなら、音量や音質の問題ではないからだ。目の前にいるライオンが吠える。その圧倒的な存在感に触れて、自分は「食われる側」なのだと自覚した。あれ以来、ライオンを見るたびに吠え声を期待してしまうのだが、聞くチャンスには巡り会えていない。

さて、動物園の役割とは何だろう。そんなこと、これまであまり考えたことがなかった。本書では著者がアメリカの動物園をいくつも訪ねて、園長や飼育員といったスタッフへのインタビューを重ねていく。そしてタイトルにある「動物園にできること」に迫ろうと試みるが、その過程で動物園が「やってしまったこと」という負の側面にも詳しく触れてある。

読み終えて、動物園に行きたくなった。というより、子どもたちを動物園に連れていきたくなった。すでに何ヶ所かの動物園には行ったことがあるが、今度はサラッと見るだけでなく、じっくり見て、説明文もしっかり読んで、そして考えて、できれば自分なりに子どもたちに何か伝えられないだろうか、と思った。そのために、まずは動物園の会員になろう。何度も通うことで感じること、得るものがあるはずだ。

動物園に対して、そんな気持ちにさせてくれる良書。

ちなみに上記画像はkindle版の表紙だが、文庫版カバーのほうが好き。

2017年12月8日

痛みが妄想を引き起こすとき

「痛み」というのは客観的な評価ができず、本人にしか分からない悩ましいものである。その痛みが、妄想を引き起こすことがある。たえばこんな感じ。

「頭が痛い、治らない、なぜだ……、なぜだなぜだなぜだなぜだ……。!!そうか!! 宇宙人が頭に機械を埋め込んだんだ! なに? 宇宙人じゃない? だったら誰だ? CIAか。さもなければ……、あっ! この前うちに来た宅配屋か! そういえば手に何か機械を持っていたが、あれがスイッチか……」

こういう「身体的な痛みと、それにまつわる妄想」を抱く人に出会ったときには、まず「痛みそのものは本物だ」と考え、痛みへの配慮を示すことだ。
「とても痛そうだけど、大丈夫?」
これくらいシンプルで良い。妄想についての話は、ずっとずっと後まわしでかまわない。

診察室で患者に、
「痛そうだけど、大丈夫ですか?」
と声かけすると、付き添いの家族などが、
「いやいや先生、これは妄想ですから」
などと口を挟むことがある。患者に向かって
「あんたも変なことばかり言わず、ちゃんと先生に治してもらいなさい!」
みたいなことを言う人もいる……。

こういうケースをみると、もしかすると、本当にある原因不明の「痛み」について周囲の理解や同情が得られず、その辛さが妄想を引き起こしたのではなかろうか、なんて考えることがある。



痛みにまつわる良質な臨床ノンフィクション 『この痛みから解放されたい ペインクリニックの現場から』

2017年12月7日

格式高い教科書には盛り込みにくいが、現場ではとっても気になっていることについて、現場の人たちへやさしく語りかけるような名著 『精神科看護のための50か条』


精神科の入院治療においては、治療と看護は密接につながっている。いや、「つながっている」というより「一体化している」というほうが正確だろう。いかに名医が素晴らしい薬を処方しても、良い看護なくして充分な治療効果は発揮し得ない。その逆に、凡医による平凡な処方でも、看護次第で目覚ましい結果を得ることも可能である。

つまり、精神科医が精神科看護について勉強すれば、それは「治療を学ぶ」のに等しいということだ。そういうわけで、看護師向けの精神科書籍も過去に数冊読んでいる。中でも中井久夫先生の『看護のための精神医学』は非常に優れている。また、師長に紹介された精神科看護の雑誌連載も面白そうだったが、今のところ手がまわりそうにない。

他職種の業務を勉強するという点では、看護師が医師の仕事を学ぶより、医師が看護師の仕事を学ぶほうが得るものが大きいのではなかろうか。そういう意味で、医師のほうが、勉強することにお得感がある。

本書では、精神科看護のためのポイントを50ヶ条に分けて、読みやすく、分かりやすく、そして頭と心に響くように語ってある。すべてを引用はできないが、各タイトルをいくつか引用。

・ 申し送りについて
・ 何はなくともケース・カンファレンス
・ 違いのわかる看護師と同じのわかる看護師
・ 記録について
・ 夜勤について
・ 家族面会について
・ 病棟規則について
・ 事故について
・ コトバにするコミュニケーションを過信しないこと
・ 沈黙について
・ 常識の大切さ
・ お小遣いなど
・ 外泊について

このような、「格式高い教科書には盛り込みにくいが、現場ではとっても気になっていること」について、やさしく語りかけるように記述されているので、読み手のこころに届きやすい。

『精神保健と福祉のための50か条』とともに、素晴らしい本である。

2017年12月5日

淡々とした描写とは裏腹に、感情がグッと引き寄せられる短編集 『罪悪』


前著『犯罪』でファンになったドイツの小説家シーラッハによる短編集。彼は弁護士でもあり、本書も『犯罪』と同じく、すべて刑事事件がらみの話である。

第一話は17歳の女性が親父たちから集団強姦された事件についてだが、被害の様子や供述などが淡々と記述される。感傷を廃した描写とは対照的に、読み手の感情はグッと引き寄せられていく。まるで精神科のケースレポートを読んでいるようだ。

本棚に飾るのにも見映えが良いので、手もとに残しておく。

2017年12月1日

痛みにまつわる良質な臨床ノンフィクション 『この痛みから解放されたい ペインクリニックの現場から』


痛みを伴う疾患や疼痛メカニズム、疼痛管理や治療の歴史など多岐にわたって、患者エピソードを交えながら語られる良質の臨床ノンフィクションである。

実臨床で即戦力となる薬の使いかたや疼痛コントロールについて書かれているわけではないので、そういうものを期待している人には不向きだろう。オリヴァー・サックスの著書や『病の皇帝ガン』といった医療系ノンフィクションを読むのが好きな人なら、本書も楽しみながら読めるはず。

原因不明な痛みの治療を求められることもある精神科医としては、ここに書かれていることが今後なんらかの参考になる日が来るかもしれない。ゆっくりと脳内発酵を待とう。

参考までに各章で扱われている疾患やテーマを挙げておく。

片頭痛
幻肢痛
三叉神経痛
椎間板ヘルニア
出産
慢性関節リウマチ
手根管症候群
心臓発作
感覚欠如
麻酔
詐病
末期がん
疼痛管理